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「格差社会幻想論」への違和感 ~『努力不要論――脳科学が解く! 「がんばってるのに報われない」と思ったら読む本』(書評・雑記)②~

努力不要論――脳科学が解く! 「がんばってるのに報われない」と思ったら読む本』の書評メモ。

今回は、筆者の「格差社会幻想論」に対して感じたことを書きたい。

 

【参考】前回の記事はこちら↓

edumemo.hatenablog.com

 

格差社会幻想論」

筆者は、以下の理由で日本は努力が報われる時代だし、国であるという。

①日本には階級がない

ジニ係数アメリカより低い。感覚としてアメリカより流動性が高い

③自分も実家が200万円を切る時期があったが大学院まで行けた

 

特に日本には「教育格差」はなく、以下のような理由で経済格差は「発想力の差」だと。

「発想が貧困な人ほど学歴や血筋や親の財産が必要」とまで言っている。怖い。

①日本ほどローコストでよい教育を得られる国はない

年功序列が薄れ、学歴も意味がなくなってきている

ワーキングプアの人は「雇用される」という発想が良くない、起業すればいい。もっと既存の構造を利用して工夫しろ。人のせいにすんな。

④世代間格差はあるが、現在は昔に比べると豊かな時代。

 

1.「日本は経済格差が少ない」という違和感

この「格差社会幻想論」を読んで抱いた違和感を言葉にしてみたいと思う。

まず、経済格差の部分について。 

 

①日本には階級がない

この点は、その通りだと思う。私も欧州にちょっといたので何となくわかる。

それでも、日本の生活保護世帯の4分の1は親の時代も生活保護世帯だったという調査もある。階級はなくても、社会経済的ステータスの固定化は、少なからず起きているんじゃないかと思う。

 

ジニ係数アメリカより低い。感覚としてアメリカより流動性が高い

ジニ係数アメリカより低いのは間違いない。

が、なぜここでアメリカを出したのか。。

ジニで言うなら、日本はOECD(先進国)平均より高いということの方が問題だと思うのだが。

www.es-inc.jp

 また、この本では、世界のジニを載せて、「世界的に見れば、日本の格差は大したことない」と書いている。

しかし、世界の多くは途上国なわけで、途上国と日本を比較するのはどうなのかと思った。(理論に賛否はあるが、発展の段階として格差が広がるという経済学の理論があったような。)

 

③自分も実家が200万円を切る時期があったが大学院まで行けた

うーん、脳科学どこ行った。

そもそもこの人は奨学金もらえたからよかったけど、その陰には、もらえない人もいるのよね。

(某NPOでは応募者の多さに対して、支援金が追い付いていないと言っている)

 

 

2.「日本は教育格差がない、あるのは発想力の格差」という違和感

次に教育格差について。

筆者は教育格差のデータは幻想だ!と言っているので何を出しても無駄だと思うが、一応載せておこう・・・

cfc.or.jp

 

①日本ほどローコストでよい教育を得られる国はない

日本の教育の質の高さはPISAでも示されているが、根拠をもうちょっと具体的に示してほしいと思った。

おつりの計算がうんぬんとかでなく。

 

年功序列が薄れ、学歴も意味がなくなってきている

確かに年功序列でない会社も多くなっているけど、どれほどなのかデータが示されていない。

そして学歴も、最近意味はなくなりつつあるかもしれない。

とはいえ、高卒と大卒の生涯賃金を比較すると、高卒では1億9240万円、大卒では2億5440万円となっている。

※ただし、高卒と大卒の生涯賃金を企業規模別に分類すると、企業規模によって逆転するので、正確にいうとそこを勘案する必要もあるけどね。

 

ワーキングプアの人は「雇用される」という発想が良くない、起業すればいい。もっと既存の構造を利用して工夫しろ。人のせいにすんな。

ホリエモンの例を挙げられましても・・・と思ったのは私だけだろうか。

ふだん色んな事情をかかえた家庭と接している私とは世界が違いすぎてしっくりこねぇ。

 

④世代間格差はあるが、現在は昔に比べると豊かな時代。

そもそもなんだけど、この人が言っている、日本の「貧困」というのは「相対的貧困」という視点がないんだろうなと思った。

飢えている人はいないけど、「みんなができる『現在』の当たり前の生活ができない」家庭は結構あるわけで。

 

子どもの相対的貧困の話だけど以下ご参照。

bigissue-online.jp

 

それでも、私はこういう論者は必要だと思う。

これまで散々文句?を書いたけど、こういう「格差社会幻想論」を唱える人は必要だと思う。

だって、当事者に夢を与えてくれるから。

私もそうだけど、「ステレオタイプの脅威」に苦しまされて、身動きができなくなっている人は少なくない。

でも、こういう成功者があなたもできるよ!と言ってくれるのは、とても心強いのだ。

 

子どもたちが格差を感じないで、自分の可能性を信じられるように、【こっそりと】社会がサポートできるといいのになぁ。

 

長くなったので、実験やサイエンスについての面白かったところはまた次回。